「石綿健康管理手帳」について

皆様、「石綿健康管理手帳」をご存知でしょうか。

まず、「健康管理手帳」とは、癌その他の重度の健康障害を発生させる恐れのある業務に従事した者に対し、離職の際または離職の後に住所地の労働局長に申請することで交付されるもので、石綿取り扱い業務に関しては、1996年(平成8年)から交付されています。

この「石綿管理手帳」が交付されると、指定医療機関で年2回の無料検診が受けられるという恩恵があります。

「石綿健康管理手帳」の交付要件

ところで、「石綿管理手帳」の交付を受けるためには、石綿の製造又は取扱いの業務(直接業務)及びそれらに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務(周辺業務)に従事していたことを証明する必要があります(ただそれだけで、交付要件を充足するという意味ではありませんので、誤解しないでください。詳細な交付要件については、ここでは割愛します。)。

一般的には、

①石綿作業に従事していたこと、及び従事期間について記載された事業者の証明書
②事業者の証明書が得られない場合、または不十分な場合には、申請者の申立書に加えて、石綿作業に従事していたこと、及び従事期間について記載された2名以上の同僚者の証明書
③事業者の証明書、同僚者の証明書ともに得られない場合、又は不十分な場合には、申請者の申立書に加えて、事業場における石綿健康診断の本人への結果通知、社会保険の被保険者記録、給与明細、雇用保険に係る証明書等を添付すること


が要求されています。

ところが、実際には、様々な事情でこれらの書類を全く準備できないケースがあります。

Aさんのケース

私たちにご相談を頂いたAさん(50代、男性)もその一人でした。

Aさんは,高校時代に,1ヶ月の間,アルバイトでニチアス羽島工場の近くにあり,同工場の下請けの仕事をしていたB社で,アスベストの耐熱板の切断やその補助の作業をして働いていました。

Aさんは、現在勤務している会社の健康診断で引っかかり,病院で検査を受けて,胸膜肥厚斑等の肺に石綿を吸い込んでいた形跡があると言われたのです。
私たちが、Aさんの現在までの職歴を聴取したところ、B社での短期間の勤務以外に、石綿にばく露するおそれのある職歴は見当たりませんでした。

しかしながら、およそ40年も前に、たった1か月だけ、しかもアルバイトとして勤務しただけですから、困難が予想されました。案の定、B社に問い合わせをしましたが、「記録が残っていない。」とのことでした。また、Aさんは、当時一緒に働いていた同僚の顔や名前等を一切記憶していませんでした。そして、アルバイトでしたので社会保険に加入していませんでしたし、給与明細は(当然ながら)残っていませんでした。要するに、AさんがB社に従事していたことを示す客観的な資料は一切なかったのです。

詳細な陳述書の作成

そこで、私たちは、Aさんの詳細な陳述書を作成して、これらの資料の代替にしようと考えました。

陳述書では、第一に、B社での作業内容と、作業環境を詳細に記載しました。A社は,当時倉庫がニチアス羽島工場近くにあり,そこでAさんは作業をしていました。作業の内容は,アスベストから作られた断熱板の切断でした。切断作業には,電動の丸のこのような切断機を使っていたようです。切断作業をする時には,電動のこぎりで切る時の木屑のように大量のアスベストの粉じんが舞っていたとのことです。

従業員が皆いっせいにその作業をするので,工場内は大量のアスベストの粉じんで充満して,粉じんが舞っているのが肉眼でも容易に確認できるほどだったとのことです。なお,工場内では換気や排気のための設備は特になかったこと、マスクをつけるようにとの指示が無かったことも付記しました。

第二に、その後の職歴を詳細に記載しました。B社以外、石綿ばく露の危険性は無かったことを裏付けるためです。

陳述書によって、Aさんが,B社で,アスベスト含有の断熱板の切断に関する仕事を施設内で行った以外は,大量にアスベストを吸い込むようなことはなく、B社でアルバイトをしていた時期に,集中してアスベストを作業中に多量かつ頻繁に吸い込んだ可能性が高いことを分かってもらえるよう努力しました。

朗報が届く

そして、このような内容の陳述書を労働局に提出し、審査を待ったところ、数か月後に無事、「石綿健康管理手帳」が交付されました。

Aさんは,今のところは,アスベストの影響による中皮腫や肺がんのような重い症状は出ていませんが,体内にアスベストを吸った痕跡が見つかったということで,何らかの重病を発病しないか非常に不安を感じていらっしゃいます。そのため,「石綿健康管理手帳」の発行により,石綿に関する健康診断を容易に、しかも無料で受診することが出来るようになって、大変喜んでいらっしゃいました。

Aさんのケースからも分かるように、石綿ばく露の危険性のある業務に従事していたことの証明が困難である場合にも、決してあきらめる必要はありません。
もし、健康手帳の取得が難しいと役所から言われたら、是非とも私達弁護団にご相談下さい。 お力になりたいと思います。

弁護士 見 田 村 勇 磨

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