クボタショック後のリスク調査

平成17年に,クボタ尼崎工場の周辺住民が中皮腫を発症したという,いわゆるクボタショックが起こりました。この時から,アスベスト製品の工場から発生するアスベスト粉じんを工場の近隣の方が吸って,中皮腫や肺がんといったアスベスト関連疾患を発症するというアスベスト近隣暴露の問題が,重要な問題として取り上げられるようになりました。

このため,環境省は,上記のクボタ工場のある兵庫県尼崎市や,その他の同様の問題がある全国7箇所の場所に住む近隣住民の方を対象に,現在「リスク調査」という事業を行っています。

このリスク調査は,環境省がアスベスト被害の実態把握を行うことにより,救済制度の施行に反映させること,また救済制度の見直しに当たっての検討材料等にすることを目的として実施されています。

岐阜県羽島市におけるアスベスト被害

東海地方の中では,岐阜県羽島市でリスク調査が行われています(なお,現在のリスク調査の実施地域は,大阪府泉南地域等,兵庫県尼崎市,佐賀県鳥栖市,横浜市鶴見区,岐阜県羽島市,奈良県,福岡県北九州市門司区の7地域です。)。

岐阜県羽島市の竹鼻地区には,ニチアス(旧会社名:日本アスベスト)の工場があり,そこでは1943年から2003年ころにかけて,アスベストを利用した保温材等の製品が大量につくられてきました。

しかし,工場の周辺では多数の方が居住しており,工場から発生したアスベストが風に乗って拡散した結果,それら工場近隣で住んでいた人の中で,肺がんや中皮腫などのアスベスト関連疾患の発症例が,クボタ尼崎工場と同様に多く見られています。平成20年に行われた調査によると,他地域とくらべ,肺がんの発症率が3倍も高いという結果が出ています。さらに,中皮腫を発症する方も多く確認されています。

リスク調査結果

上述のリスク調査では,調査を実施する地域の中に住んでいて,アスベスト健康被害の不安があり,申請を行った方に対して,無料で問診,胸部X線検査,胸部CT検査等を行って,アスベストばく露の証明になる胸膜プラークを確認するなどして,アスベストの健康影響を調査するという事業を行っています。

そして,最新のリスク調査の結果によると,岐阜県羽島市では,調査に参加した744人のうち,268人の人に胸膜プラークが確認されており,アスベストを相当量吸引していることが明らかになっています。また,胸膜プラーク以外のアスベスト関連の所見がある人も,20人程度確認されています。

弁護団の活動について

このリスク調査の結果からも明らかなとおり,羽島市内で多くのアスベスト被害が確認されていることから,アスベスト被害救済東海弁護団では,羽島工場からの被害対策の活動を行っている「アスベストに関する地域住民の会」の方達と連携して,これまでに羽島市内で法律相談・健康相談を行ってきています。

また,羽島市で行われているアスベスト調査委員会に,地域の区長の方や議員の方,それに市の関係者の方々等とともに参加して,羽島市におけるアスベスト被害の実態究明と,アスベスト被害からの救済のための活動を行っています。

(弁護士 小島智史)

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