前回の寄稿の直後に!

2013年7月、この紙面に寄稿した「中国におけるアスベスト事情」と題した記事の中で、他国での規制のあり方が国内に及ぼす影響も決して軽視できないこと、そして、中国でアスベストを用いた自動車ブレーキパッドの使用が(表向きは禁止されてはいても)横行していることを紹介しました。

そのわずか1ヶ月後の2013年8月、ある日本の業者が台湾から輸入し国内で販売している自動車用ブレーキバッドに法定の基準値を超えるアスベストが混入していたことが報道されました。

当該業者の発表によると、問題となった業者の製品は、日本国内において、2010年9月から計87種類、約8万セットが出荷されたとのことです。他国での規制のあり方が国内にも影響を与える影響はやはり軽視出来ません。

あるかまど工の労災被害

さて、今回ご紹介するのは、广州市の安之康信息咨询有限公司(健康情報サービス有限会社)という会社(サイトの説明によると、労働安全と労働者保護に関心を持つ労働者の組織だということです)が開設しているサイトに紹介されていた、あるかまど工の男性の労災被害についてです。

上薬の製造工場で20年近くかまど工として働いていたこの男性は、2010年8月咳や熱、身体の痛みを訴えて病院に行ったところ、末期の肺がんと診断されました。

男性が肺がんに罹患していることが発覚した後、会社は、肺がんの原因は数十年にわたる喫煙のせいであるとして、男性に対して「故郷に帰って休むように」と言うだけでした。しかし、男性は工場内で大量に使われていたアスベストが原因ではないかと疑い、広東省の職業病予防治療院に対して鑑定を求めます。

2011年3月、同院は男性の肺がんは職業上のアスベスト曝露を原因とするものであるとの判断を出し、これに基づいて男性は労災の認定を受けました。ところが、会社はこれに不服があるとして訴訟を起こし、同時に鑑定のやり直しを求めます。2回目に出された鑑定結果は、アスベストを原因とする肺がんとは認められないという全く逆の判断。これに対し、男性は諦めずに再度の判断を求めます。

2011年11月、「石綿を原因をする肺がんである」との再度の鑑定がなされ、裁判所も男性の肺がんを労災と認める判断を出しました。

この記事は、男性が二転三転する判断の結果、ようやく正義を勝ち取ったものの、このために時間と命を削られたとコメントしています。

2012年1月、男性は44歳の生涯を閉じました。かつて、身長180センチ、体重80キロあった男性の身体は、末期には、痩せこけ、足は竹竿のようになっていたと紹介されています。

記事の中で印象に残ったのは、優秀な労働者であり、肺がんを発症する前には会社の功労者として扱われていた男性が、肺がん発症後には一転して会社から「この業務で労災が発生したことは一度もない」などと主張され、冷たくあしらわれる様です。ついつい、今、訴えを起こしてる裁判での会社側の主張を思い出しながら、どの国でも起きることは同じだとしみじみと感じ入った次第です。

(弁護士 中山 弦)

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