名古屋駅のランドマーク的存在、大名古屋ビルヂングが解体されています。石綿の除去作業によって、労働者が被曝したり、周辺への石綿粉じん飛散があってはいけないと、2012年11月27日、アスベスト対策連絡会議と名古屋労災職業病研究会が共同して要請行動を行いました。
私はこの要請行動が行われるまでの議論に参加できておらず、また、ばく露防止のための予防行動に参加するのは初めてでしたが、大変貴重な経験をさせていただきました。以下、簡単ですが報告させていただきます。
1.名古屋西労働基準監督署への要請
現地を管轄するのが名古屋西労働基準監督署、ということでまず西労基署へ要請に出向きました。労働安全衛生・監督関係の次長と、労働安全衛生関係の主任監督官の2名が対応。当方の参加者は7名。2時間半にわたり、和やかに懇談を行いました。
当方からは、
・現場への立ち入り検査を実施。目視だけでない調査を。実際の除去工事中の検査を。
・労働安全衛生関係費用については、数次下請けとなっても途中でピンハネることなく、最末端で実際に作業する労働者に確実にわたるよう、指導を。
・シンボル的な工事についてきちんと監督することを通じた業界全体のボトムアップ、飛散・ばく露防止のため現行の法令下でもできることを柔軟に対処を。実際に旧タキヒョウビル解体時に基準値の150倍の数値が検出されている、名鉄百貨店改装時にも石綿粉じん飛散が確認されている。
・東日本大震災のがれき処理ボランティアなどについても石綿対策が必要ではないか。
と要請を行いました。
労基署からは、
・石綿除去工事への現場立ち入りは、通常、養生完成後、実際の除去工事開始前に行っている。その際は、大気汚染防止法(周辺への飛散に関わる唯一の法規制)を所管する保健所と日程を調整して出向いている。
・石綿除去工事の届け出があった全件についての現場立ち入りはできていない。
・除去工事中の立ち入りは、法規制が厳しくなったときに数回行って以後、行っていない。
・ある時期以後、監督官の臨検歴を記録して保管するようになった。
・監督官の人減らしも深刻。是非みなさまのお力もお借りしたい。
という発言がなされました。
また、中皮腫で夫を亡くされた宇田川さんからは学校現場というだけで労基署が労災を認めなかった、その姿勢がおかしいのではないかという要請がなされました。
2.解体作業の元請・清水建設株式会社への要請
清水建設側から現場事務所長、総務関係を含む9名が、当方からは11名が参加し、1時間15分にわたり説明会が行われました。
予め名古屋労災職業病研究会と共同で事前質問書を提出してありましたので、清水建設から工事概要説明及び事前質問への回答を受け、質疑応答を行いました。
清水建設からの説明は、石綿対策を十分に行っているという内容でした。除去工事に際し、吹付材(レベル1)、保温材・耐火材・断熱材(レベル2)、Pタイル・成形材(レベル3)とレベルを分けてそれぞれに応じた準備作業、本作業、後片付作業を行うことや、教育も下請作業員に対してもきちんと行うこと、周辺への飛散については法令の基準のほかに作業開始前の数値の2倍以上になったら作業を中止して調査することなどの説明がなされました。
当方の問題意識は、実際の作業現場での安全対策が下請け任せになってなおざりにされるのではないか、ということでした。その観点から、作業員は全部で何人という想定か、その想定を出した具体的な根拠はどういうことか、という質問をしました。
これに対しては作業内容と工程をみて下請けからの数字である、途中で出来高を確認し必要があれば人を増やす、という回答がありました。重ねて、その場合どうしても作業員をかき集めざるを得ず、予定している3次の下請け以下の下請けも使わざるを得ないのではないか、安全対策がおろそかにならないか、と追及しましたが確たる回答はありませんでした。
このほか、作業員の防護マスクについても、直接清水建設が支給はしない、マスクのフィルター交換は下請けが行う、マスクのフィットテストは毎朝のミーティングで行う、という説明がなされたため、清水建設が関与する形で記録を残すなど実効性ある対策をとるよう、要請しました。
事前質問してあった、アスベストの総量については実数で精算するという説明にとどまり、明らかにされませんでした。また、清水建設側からはパワーポイントを使った説明がありましたがその資料は渡していただけず、清水建設側の参加者は後ろ姿であっても写真撮影お断り、でした。
事前質問と回答については文書がありますのでご希望の方は事務局へおたずねください。
3.今後に向けて
労基署への要請は、現在の法令下でほぼ唯一の権限を有している行政機関を励ますという意味で意義があったと思います。健康被害がでてからでは遅い深刻な問題なのに市民間で問題意識の広がりが見えにくい中、直接除去工事に携わらない市民から要請があったことを、労基署も重く受け止めて欲しいと思います。
それにとどまらず、本当に実効的な対策を講じてもらうためには、大名古屋ビルヂングの石綿除去工事終了後に再度、今回の結果を聞きにいく機会をもったり、別のビル解体(西署管内では名古屋郵便局のビル解体など次々と大規模ビル解体が控えているようです)に際しても要請を行うなど、継続した取り組みが必要だと感じました。
清水建設の説明会では、簡易測定器で作業中の環境測定を瞬時に行うことなど、現時点での石綿粉じん対策の実際を知ることはできました。しかし、現場で実際に除去作業にあたる下請(かつ元請からみると数次下の下請)の労働者に対して、実効性ある対策を漏れなくとる、という視点はまだまだ不十分であるといわざるを得ません。
石綿除去工事は、解体工事の中でも特殊な作業になるため、「専門工」であるとして元請けから下請けへ丸投げになされがちです。本件でも肝心な作業員数、マスク等の防護に関わる点が丸投げのようでしたが、それでは元請としての責任を果たしていないことを十分認識して欲しいと思いました。
清水建設側では今回の要請を録音しており、後に役立てたいとのことでありましたので、改善を大いに期待したいところです。また、説明会を開いていただいたことは大変良かったと思いますが、資料の提示など、もう少し住民側に対してオープンな姿勢を示していただいたらなお良かったと感じました。
大手ゼネコンが石綿除去工事に次々と「失敗」している中、業者に対しても今後の継続的な取り組みが必要だと感じました。
弁護士 田 巻 紘 子
(アスベスト対策愛知連絡会 会報「いしわた」情報 2012年冬号に掲載)