グローバリゼーションの陰で
2012年8月、中国の自動車会社2社がオーストラリアで販売した車両にアスベストが含まれているとして合計2万3000台がリコールされるという出来事がありました。
PM2.5による越境大気汚染が社会問題として大きく取り上げられたのも記憶に新しいところですが、人やモノの国境を越えた行き来がますます盛んになる昨今、他国での規制のあり方が国内に及ぼす影響も決して軽視できなくなっています。
中国におけるアスベスト最新事情がいったいどうなっているのか、インターネットから得られる情報をもとにいくつかピックアップしてみました。
中国政府ポータルサイトにおけるアスベストの危険性の指摘
まず、目に留まったのが、中国政府が運営しているポータルサイトである中国政府網が2012年8月29日に掲載している「アスベストが健康に与える影響はどれほどか」という記事です。
これは、もともと中国において科学技術分野で最も権威のある新聞とされる科技日報に掲載された記事のようですが、これをみると、上記オーストラリアでのリコール問題が紹介された上で
「アスベストの吸引が人体に重大な健康被害をもたらし、石綿肺や肺がん、胸膜中皮腫といった重大な疾患を引き起こすこと」
「全世界で1億2500万人が職務上アスベストに接触し、職業性曝露によって引きおこされる被害が増加傾向にあること」
「アスベスト関連疾患が発症するまでの潜伏期間が長いために、たとえ現在アスベストの使用を停止しても数十年後にならないと死亡人数が減らないこと」
等が指摘されています。
また同記事は、アスベストの規制について、多くの国でアスベストの使用が全面禁止になっているのに対して、中国では、「自動車ブレーキ系統の構造、性能及び試験方法」(GB12676-1999、中華人民共和国標準化法に基づく国家標準)において「ブレーキにはアスベストが含まれないようにすべき」と規定され2003年10月1日から施行されているものの、アスベストの自動車部品への使用は未だに全面禁止となっていないこと、国内外の立法整備によってノンアスベスト化が差し迫っていることを紹介しています。
さらに、同記事は
「アスベストがガンを引き起こす限界標準値は明らかになっていないものの、ある研究者によると、少ない量のアスベスト曝露によっても発ガンリスクが増加する」
「それゆえにアスベスト関連疾患をなくす最も有効な道は、各種アスベストの使用を停止することである」
と締めくくっています。
アスベスト製のブレーキパッドの使用
次に目を引いたのが、京華時報の2013年1月22日付の記事です。
これによると、北京市の全国人民政治協商会議(政協)港澳台僑委員会(香港、マカオ、台湾を担当する委員会)の顧問であり、万科グループ(中国の大手不動産会社)の副総裁である毛大慶氏が、微博(中国のソーシャルメディアの一つ。中国版ツイッターとも言われる)において
「アスベスト製のブレーキパッドの摩擦によってナノレベルの重金属粉塵が発生し、これが肺に吸入されることで肺がんを引き起こす。また重大な空気汚染源にもなっている。北京には500万台の自動車があり、1台あたり4つのブレーキバッドがあることから、1年で数万トンのナノレベルの有害粉塵が生じる」
と述べ、これがネット上で大きな議論を巻き起こしていると報じています。
同じ問題に関連して、中国広播網も、同月24日付で「アスベストを用いた自動車ブレーキパッドの使用は“禁止されても止まず”、粉塵の肺への吸入によってガンが生じる可能性」と題した記事を掲載しています。
これによると、記者が訪れた鄭州(ていしゅう)市(河南省にある都市)のいくつかの大規模な自動車部品マーケットでは、ほとんどの自動車で用いられているブレーキパッドはノンアスベスト製品であったものの、鄭州市の別の店で働く従業員は「アスベスト製のブレーキパッドはコストが安くて重量も軽く、トラックなどの業務用の車を生産する際には、未だにアスベストを含んだブレーキパッドを使用している」と述べていると紹介されています。
利潤優先、人命軽視の構造
アスベストの危険性が明らかになったのちも、利潤優先によって規制が立ち後れ、また、規制が実効的に守られず、安全性、人命が軽視されるという構造はやはりどこでも同じです。
上で紹介した中国政府网の記事でも述べられているようにアスベストによる被害は「たとえ今手を打ったとしても数十年後にかけて広がっていく被害」です。一刻も早い対応、そのための国際的な協力が求められています。
(弁護士 中山 弦)
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