平成22年11月13日、アスベスト被害救済東海弁護団が行っている「アスベスト被害110番」にご相談いただいたことがきっかけで、本件労災申請事件を弁護団の中山弦弁護士と共同受任しました。

ご相談は、平成22年1月に中皮腫で亡くなられたSさん(享年58歳)が「事務職」にあったことをもって繊維製造業を営む会社が事業主証明を拒否しているというものでした。

しかし、アスベスト曝露の有無は、事務職か否かなどという形式的な枠組みで判断されるのではなく、業務の実態に即して判断されるものです。そこで、Sさんのご遺族を介して、私達弁護士が当時の職場の事情を知る当時の上司や同僚の方々から業務の実態を調査しました。亡くなられたSさんのお人柄か、たくさんの方にご協力いただきました。

業務係長をSさんに引き継いだ前任者の方によると、業務係長は資材や工程の勉強のために工場内部に出入りしており、その工場内部では配管等の保温作業が行われていたとのことでした。当時の上司の方からも同様のお話しをうかがうことができ、アスベスト曝露の態様が明らかになりました。

労災申請にあたっては、当時の工場内で保温作業が行われていた頻度や、業務係長が工場に入る頻度、どれくらいの至近距離で保温作業を見学していたかなど、石綿曝露に当たる事情をできる限り詳細且つ具体的に聴き取って陳述書に反映することをこころがけました。結果、平成24年1月に労災として認定されました。

今回の結果から分かるように、「事務職だからアスベストに曝露されていない」などということは全くありません。事務職であったとしても、また、会社から事業主証明を拒否されても、労働実態を明らかにして認定を得られるということを多くの方に知っていただきたいと思います。

弁護士 山 下 陽 平

関連記事

どんな補償が得られるか  労災制度による補償内容(本人請求の場合)その1

どのような作業に従事している必要があるか  アスベストばく露作業

アルバイト時代のアスベスト暴露

岐阜県羽島市における,アスベスト近隣暴露の問題