記念講演の報告 ~アスベスト対策愛知連絡会~

 ご存じない方もいらっしゃると思いますが、愛知県には「アスベスト対策愛知連絡会」という団体があります。この団体は2006年2月に結成され、アスベスト被害に関して活動している愛知県の労働組合等の各団体から組織されています。
 2016年5月14日(土)に第8回総会が開かれ、総会のあと愛知教育大学准教授の榊原洋子先生の記念講演がありました。このときのことを報告します。

 榊原先生は、大学の保険体育講座危機管理室でお仕事をされていますが、労働安全衛生法上の衛生管理者としてアスベストなど危険物質についての管理をしているそうです。
 とてもエネルギッシュな方で、環境教育に対する愛情、学校のアスベスト問題に対する熱意を感じました。大学構内のあちこち、例えば、自転車置き場の屋根の波形スレート、研究室の廊下、実験教室にある実験用机、園芸用土などあちこちにあるアスベスト含有製品を探したり、部屋の解体工事における粉じんをエックス線回析などをしてアスベスト含有量を調査したりしているそうです。私も「ヘエー、そんなところにも使用されていたのか」と初めて聞いたこともあり、とても勉強になりました。
 講演には写真が多用されていたので、講演内容を詳細に伝えることができませんが、記憶の範囲内で書いてみます。

 バーミキュライトは日本名で「ひる石」と呼ばれていますが、それは焼くとにょろにょろと伸びるのでまるで「蛭」の様だということで、その名前になったということです。主に園芸用土として使用されますが、石膏ボードなど建設資材として使用されたり、セメントをまぜて天井など吹き付けて使用されることもあります。ひる石という物質そのものは雲母の一種ですが、しかし、蛇紋岩近くの地層で採掘され、しかも蛇紋岩には、石綿が含まれているので、ひる石の採掘の際に石綿が一緒に含まれるそうです。愛知県新城市鳳来町にあった黄柳野高校の跡地付近にもひる石が見つかったのですが、この辺りは蛇紋岩の層があって、かつてはアスベストの産出地とされていました。今でも蛇紋岩が地表にでているので見ることができるそうです。緑色できれいな石だそうです。また、教材用として蛇紋岩が1個240円でネットで簡単に購入することもできるそうです。
 分析によればこのひる石に意図的にクリソタイルなどを加えて吹付け材が製造されている可能性もあるそうです。ところで、このような建材ボードが天井や壁に貼り付けてあるものが経年劣化したことで解体作業をする際のお話もありました。このようなボードをのこぎりなどで切断するとその切断によって微細な粉じんが発生するため、その作業は非常に危険なので、愛知教育大学で解体作業する場合には、作業員が手作業でひとつずつ剥がすことにしたそうです。ところが剥がしたボードを大きなビニール袋にしまう段階で、このボートを手や鉄の棒で壊してから捨てるので、結局空気中にアスベスト粉塵が舞い散ることになったということです。せっかく作業員がマスクを付けたり、部屋の周囲をビニールで囲んで万全の曝露防止策をとったにもかかわらず、予期しない落とし穴があったということです。
 その他、空気中の石綿線維の分析については基準では長さ5ミクロン以上のものを数えることになっているが、もっと短い線維も入れると、数が増える、という指摘もとても興味を覚えました。また発見された石綿が、クリソタイルか、クロシドライトかなどの判別を行うためには、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)などの元素分析をしてから同定するそうです。

 この他、タルクの話、ガラス工房や銀製品工房の話、歯科医師の話、古い本の中にあった白い粉の話など、興味をそそるお話がたくさんありました。

 ところで最後辺りでアスベスト代替製品としてニチアス製造の「リフラクトリーセラミックファイバー」が写真で紹介されました。実は私はアスベスト製品の代替としてガラスウールやロックウールがあることは知っていましたが、セラミック製品があり、しかもニチアスで製造されていたことを初めて知りました。そしてすでに発がん性があることが知られており、写真に写った製品の袋には「発がん性の疑い」と明記してありました。
 私が講演後に調査したところによれば、このセラミックファイバーは、ガラスウールやロックウールに比べて耐熱性が非常に高く実用性があるということで、それまでの石綿製品と遜色のないものだということです。ニチアスの会社のホームページにアクセスすると、実にいろいろな製品として活用されていることが分かります。国内では、すでに年間14000トンも生産されています。そのため厚労省は、平成27年11月1日に労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則、特定化学物質障害予防規則を改正し、セラミックファイバー製造・取扱い作業について、発散する粉じんに労働者が曝露されることを防止するため、屋内作業での発散抑制措置や、局所排気装置及びプッシュブル型換気装置の性能要件、点検、届け出などを義務付けたということです。

 ご講演のあと、3階の健康センターの部屋で打ち上げを行いました。榊原先生にもご参加いただき、話がとても盛り上がりました。その中で先生が「私の所には学校中の危険な物が一杯運ばれてくる。それを一つずつ、どんな物質が含まれているか分析することになるが、結果が出るまで、まったく分からない。要するに私は未知の危険物質に囲まれて仕事をしている。」という趣旨の話しをなさいました。榊原先生の仕事こそ危険だということが分かり、一同ご健康を祈りました。

2016年5月28日
弁護士 渥 美 玲 子