1 2019年2月15日、大阪にあるエルおおさか南ホールにて、関西建設アスベスト訴訟「大集会」が開催され、アスベスト・じん肺被害救済東海弁護団所属の井上(はなみずき法律事務,一宮市)が参加してきましたので、その様子をご報告したいと思います。
2 過去,建設現場では,建材に大量に使用されたアスベストが使用された結果、その危険性が周知されなかったため、多くの建築作業従事者がアスベスト粉じんに暴露してしまい、長い潜伏期間を経て深刻な健康被害が発生してしまいました。
本集会は,当該被害の救済を実現するため、全国各地で行われている裁判の現状報告と、裁判所に対して,国と建材メーカーを断罪させ、全面解決、被害救済を行うことを決意する決起集会となりました。
3 集会には、地元関西建設アスベストの原告ら、弁護団、支援者だけではなく、北海道訴訟や九州訴訟の原告、弁護団、支援者らが駆けつけ、各地の裁判の現状と、ともに支え合って闘い抜く決意の宣言がなされ、会場が一致団結している雰囲気を体感することができました。
4 建設アスベスト訴訟は、北海道、東京、神奈川、京都、大阪、九州の各地裁で提訴されており、2008年5月16日、最初に提訴された東京地裁から10年9ヶ月という年月がすでに経っている状況です。
集会では、関西建設アスベスト京都訴訟弁護団事務局長である福山和人弁護士のあいさつ、建設アスベスト訴訟全国連絡会事務局長の清水謙一氏の講演、大阪アスベスト弁護団長である村松昭夫弁護士の情勢報告などがなされました。
5 各報告者からは,建設アスベスト訴訟の全国的な状況も今後の展望や要求実現のための具体的な目的等が報告されました。以下,その内容を報告いたします。
北海道訴訟は,2017年2月14日札幌地裁で国に対しては勝訴判決を獲得しています。現在,札幌高裁に控訴中とのことですが,見込みとしては,2019年7月の期日では結審しないと裁判長が明言しているようですが,2019年度内中には判決見込みであるとのことでした。
東京訴訟,神奈川訴訟,京都訴訟,大阪訴訟は,現在1陣はすべて高裁判決まで判決が出ており,現在上告中とのことでした。
九州訴訟は,高裁判決2014年11月7日,福岡地裁で国に対しては獲得しています。現在,福岡高裁に控訴中とのことですが,2019年5月27日に結審予定であるとのことで,こちらは年内に判決が出る可能性もありそうです。
6 裁判の到達点や課題については,特に大阪アスベスト弁護団の村松弁護士より詳細な報告がありました。
現在,国に対しては,建設現場における労働者に対しては,防じんマスクの規制等が遅れた規制権限不行使の違法を認める判決はほぼ定着しています。
横浜地裁で2012年の第1陣で国の責任が否定されたものの,その後,6つの地裁で国の責任が肯定され,これは東京高裁,大阪高裁の4つの事件でも同じ判断が踏襲されました。
しかし,国に対する責任については問題があり,それは,建設現場で働いていた人の多くを占めるいわゆる一人親方と呼ばれる人達に対する責任です。
安衛法等が直接的には労働者を保護対象にしているという理由で,国家賠償法上の保護範囲に含まれないとする判断が続いていました。
もっとも,この点については,2018年3月に出た東京高裁判決で初めて一人親方等に対する国の責任を認める判決が出たのち,この流れを同年8月31日に京都第1陣の高裁判決及び同年9月20日の大阪第1陣高裁判決も踏襲しており,この点はこれまでのすべての関係者の活動の大きな評価すべき成果だといえます。
また,企業責任について,これまでは,建設アスベスト特有の困難性,すなわち被害者が石綿建材からの粉じんで石綿関連疾患にり患したことが明らかであっても,長期間にわたって多数の建築現場で多種類の石綿建材を取り扱っていたことから,自らの石綿関連疾患発症の原因となった石綿建材やそれを製造・販売した建材企業を特定することの困難性があったという問題がありました。
しかし,この点についても,高裁判決が,建材のシェアと確率論を用いて,建材と石綿関連疾患との因果関係を認定し,原因企業の特定を認める流れが確かなものになりました。
7 村松弁護士の報告は,上記のような裁判の到達点について報告され,関西における高裁判決で,被害者救済を大きく前進させたことを大きな成果として大変意義があることを訴える一方,今後の最高裁闘争における油断は絶対に許されないとし,最高裁闘争を全国的にどのように統一的,攻勢的に進めるかが鍵であり,今年度判決予定である札幌高裁,福岡高裁の判決が大変重要である旨報告された。
さらに,裁判闘争と並行して,政治解決を求めることは必要であり,2019年は,司法判断がほぼ出そろうことになるので,この条件を活かして,建設アスベスト訴訟の早期解決と救済制度創設をどう具体的な形に仕上げるかが正念場になるとのことであった。
8 そして,建設アスベスト訴訟全国連絡会の清水謙一事務局長からも,裁判の現状が報告されるとともに,今後について,最高裁公正判決要請署名,全面解決を求める広範な世論の構築として,新しいチラシを用いての地域宣伝,福岡高裁,札幌高裁での全面勝利判決(一人親方を含めこれまでの到達点を維持,後退させないこと。加えて新たな前進・成果を目指すこと)の必要性を会場全体の関係者に熱く訴えられておりました。
9 今後も,建設アスベスト訴訟の状況についてアンテナを張り,勉強させてもらえる機会があれば参加していきたいと考え,東海地区の被害者救済に活かしていければと考えております。